オープンイノベーションはなぜ必要なのか。【EMICフォーラム2023】これからのイノベーション経営と場 –自己流から仕組み化へ-
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オープンイノベーションはなぜ必要なのか。【EMICフォーラム2023】これからのイノベーション経営と場 –自己流から仕組み化へ-

公開日:
2023.10.13

2023年822日 FCAJ※との共催でイノベーションの「場」づくりをリードしてきた経営層によるイノベーション経営と場の重要性、並びに場の推進者における運営の工夫や今後の展望等、第一線をリードする生の声が聞けるEMICフォーラムがQUINTBRIDGEで開催。

EMICは「イノベーションの場の評価モデル」を研究する活動として2019年にスタート。
今年で3回目となるEMICフォーラムは、 場づくりをリードされてきた役員によるイノベーション経営と場に関するパネルや、場の推進者による運営の工夫と課題や展望等をディスカッション。イベントの中ではFCAJファウンダー/多摩大学大学院 教授 紺野 登氏に登壇いただき、キーノート「未来志向の構想に基づくオープンイノベーション」について講演いただきました。

本レポートではEMICフォーラムのイベント模様と紺野さんに改めてオープンイノベーションの必要性や課題等これからのイノベーション経営と場についてお聞きした内容についてお届けします。

※一般社団法人 Future Center Alliance Japan(以下FCAJ)は、イノベーションの場を通じて知識創造社会をつくるアライアンス組織。

|オープンイノベーションとは

オープンイノベーションとは、自社等の組織内部のイノベーション促進のために、組織内外を問わず技術やアイデア、知見等のあらゆるリソースを駆使し、さらに組織内で創出されたイノベーションを組織外へと展開する一連のモデルを指します。

元々はアメリカの企業が、一社だけのリソースではイノベーションを興せなかったり、研究開発費が膨らんできたりといろんな背景があり、外からの知財を取り入れようとオープンにパートナーを探したり提携したことが始まりです。いわゆる「オープンイノベーション1.0」は、企業間での知財と知財のやりとりです。新しい企業関係であるバーチャル・エンタープライズ(仮想的企業帯)ですね。

そしていまは、「オープンイノベーション2.0」としてアップデートされ、企業間だけでなくもう少し広い範囲、自治体・研究期間・大学・市民等も入り、ユーザーをベースにしたパートナーとの連携によるオープンイノベーションの時代になっています。

ーいまなぜイノベーションが必要なのか

過去数十年の変化の中で、「競争戦略からイノベーションへ」というシフトがされ、「イノベーション経営システム」が登場しました。「いまイノベーションを行うことは経済活動にとって必然である」と紺野さんは語ります。

ー大企業にとってのイノベーションの必要性

イノベーションというと、100年以上前にシュンペーターが掲げた「破壊と創造」を連想させますが、いま求められるのは、不確実な世界で社会の持続性を生み出すためのイノベーション。質や価値の本質的変化を求める(量的ではない)イノベーション経済の時代ともいえます。重要なのは革新性と社会的な目的共通善であり、企業はイノベーションを行わなければ、ビジネスモデルの陳腐化や破壊的イノベーションの脅威にさらされることになります。

|オープンイノベーション施設のトレンド

イノベーションの場は大企業だけでなく、地域企業や研究機関、行政、大学等が場をもつケースも増えています。コロナ禍でリアルな交流が減った際にも、オープンイノベーションの場は増え続けていました。

たとえば、コクヨ「OPEN LAB.」、富士通ゼネラル「イノベーション&コミュニケーションセンター」、NTT西日本「QUINTBRIDGE」等のオープンイノベーションの場等があります。

自社だけでなく他企業や自治体、大学、地域の市民等より広い範囲の人々に参加してもらうような施設が多くなってきています。

ーコロナを経た、働く場の進化

コロナ禍でリモートワークの利便性を体験したワーカーにとって、働く場所の選択肢があることは個人のパフォーマンス向上や所属組織への満足度にもつながります。一方で、リアルなコミュニケーションの機会が極端に減ると、人間関係が薄れて組織への帰属意識が定価するデメリットもあります。これらのバランスを取るために、リアル、リモート、バーチャルのハイブリットを前提に、本音で話をすることができて、対話・共創が促される環境づくりに取り組む企業が増えています。

以前のオフィスは機能空間を重要視したデザインでしたが、現在の組織ではイノベーションが求められるなか、固定化されたオフィスでは組織内でのダイナミックな知識創造は起こりにくく、実際にイノベーションの現場では、外部の知を取り込むことよりも、内部の知を混ぜ合わせることに課題を抱えている企業・組織も多くいます(FCAJ調査より)。オフィスではどんな働き方をしたいのか、組織として何をめざすのかを考えていく必要があります。

|オープンイノベーションの場に必要な要素について

世界にはさまざまな共創の場があります。問いを立てるためのフューチャーセンター、解決策を共創するためのイノベーションセンター、日常の中で試すリビングラボ、これら3つの場の機能を理解し、イノベーションプロセスに応じて組み合わせて、連携していく必要があります。そのために共有目的の設定をし、組織内だけでなく、社会の文脈のなかで対話をしていく必要があります。

|オープンイノベーション施設の課題

場が増える一方で、ここ数年はリソース不足、経営者の意識とのギャップ、組織内外の人の巻き込みに苦労するという声も多く上がっています。

また、企業のイノベーションの課題として、現在の現業・本業の維持、変化への対応、景気変動やリスクへの一喜一憂がある中で、イノベーションという未来への投資や未知の価値の実現、スタートアップとの協業等に取り組む難しさも課題です。

ムードメーターで「社員・経営層の巻き込みに困っている」という問いかけには多くの参加者が共感し手をあげていました。

しかし、イノベーションに取り組んでいる企業しか伸びないともいえます。大企業は現在の組織の維持、そしてイノベーション経済への転換(未来・新規事業・新核事業)を両輪として捉えるのではなく、経営戦略のなかにイノベーション戦略を織り込んでいく必要があると紺野さんは語ります。

ー場の効果とマネジメント

場のマネジメントなくして成果は生まれません。「場」の概念を提唱した野中郁次郎教授は、知的創造活動を企業の本質として捉え、暗黙知の共有、コンセプトの創造、知識の移転には、個人が相互に作用しあう「場」が必要だとしました。

また、グローバルではイノベーションマネジメントシステムの導入が進められています。これらのプロセスを進めていくには支援体制を整え、リーダーシップを醸成し、イノベーションを歓迎する組織の状況をつくる必要があります。このような活動を行うには「場」が有効です。「場」とは「人」を主体とした創造活動を支えるためにあり、重要な経営活動といえます。

|イノベーションの場の評価モデル「EMICモデル」とは

FCAJでは2019年に国内外のイノベーションの場をベンチマークし、世界で初めてイノベーションの場の評価モデルEMICをつくりました。バウンダリーオブジェクトとしての場の基本構造をフレーム化したものがEMICモデルです。

バウンダリーオブジェクトとしての場
個々の場の機能・成果だけに目を向けず、ウチ(組織)とソト(社会)の融合・協創を促すためのハブとしての場の評価を行う

EMICモデルの概要
目的は場の成果に深く関わっており、場の効果を関係者がどのように認識しているかを評価に加えることで、より総合的に評価ができるようになっています。EMICはマネジメントに活用するためのツールですが、同時に、場を利用する人たちの共通言語にも成り得ます。

EMICについて:https://futurecenteralliance-japan.org/projects/emic

※(紺野さんの登壇内容の他、FCAJ出版 イノベーションの場のガイドブック「WISEPLACE」の最新号Vol.5EMIC~オープンイノベーションを加速する共創の場の評価モデル~」より一部引用・抜粋)

|パネルディスカッション1「イノベーション経営と場」

(登壇者)
ダイキン工業株式会社 執行役員 テクノロジー・イノベーションセンター副センター長 河原 克己 氏
NTT西日本 執行役員 技術革新部長 白波瀬 章 氏

(モデレータ)
リワイヤード株式会社代表、FCAJ理事 仙石 太郎 氏 

「イノベーション経営と場」というテーマで行われたディスカッション。
イノベーションの場による大きな変化であり成功だったことは「社内でいままでなかった深い対話が生まれたこと、社外の人とも目的を共有することで本音の対話ができるようになったこと」だと話すダイキン工業 河原さん。本気で問いかけ、否定すべき場面では正直に意見を伝える、そこで新たな問いが生まれたり課題の発見につながっていると語りました。

また、NTT西日本の白波瀬は、QUINTBRIDGENTT西日本グループのアセットを活用した事業共創や、西日本の各エリアと連携パートナーとのつながりができ、NTT西日本として出資機能・ファイナンス支援の機能も、外の方と繋がることで実現したことを成功事例としてあげました。一方で、無料にするという判断は難しかったと話しました。会員の価値は会費ではなく、リソースを持ち寄ること、解決したい課題を持ち寄ることだと考え、議論の末に無料となりました。この場の価値を会社として継続・承認を得ていくことが課題だと語ります。

場があることによる価値、社員が多様性のある人と出会いモチベーションが上がり、社会課題を解決したい人が集まっている、それを経営の価値として数値化していくところに苦労しているという話に、参加者の多くが大きく頷き共感していました。

|パネルディスカッション2「EMICオーディットで得られた示唆と今後の展望」

(登壇者)
コクヨ株式会社 イノベーションセンター センター長 三浦 洋介 氏
design MeME 代表、FCAJ マイスター 小島 健嗣 氏
NTT西日本 技術革新部 イノベーション戦略室 室長 市橋 直樹 氏

(モデレータ)
コクヨ株式会社 主幹研究員、FCAJ理事 齋藤 敦子 氏 

EMICオーディットで得られた示唆と今後の展望」というテーマで行われたパネルディスカッション。

EMICスコアの変化を見ると全体的に数値は上がっていますが、「人・金」等リソースの問題は依然あり、主たる機能を「イノベーションセンター」と答えた組織はソフト面でのポイントが下がり、「リビングラボ」は上がっています。また今後の「場」の活動方針では「従業員のマインド教育」が高くなっており、自組織内のイノベーション文化の育成への意識について、design MeME 代表 小島さんは「12年で何千万〜何億円規模の事業はなかなか生まれないけれど、社内のモチベやリクルーティング等、経営層にどう伝えていくのかということを学んでいった」とご自身の経験を語りました。

また、「QUINTBRIDGEはなぜロケットスタートを切れたのか?」という質問に対し、NTT西日本 市橋さんは「運営メンバー各自が他社との連携や人脈を持っていて、Giver(ギバー)とのネットワークを作ってくれたので、100社ほどパートナーがいる状態でスタートできた。そのギバーの方が課題を持ってきてくれて、その後は口コミが口コミを呼び輪が広がっていった。」とオープン当時を振り返りました。

イノベーションを起こせる意識の高い人材をどう集めるのか、そのためのプログラムや仕掛けが大事という話題では、「全体の7%くらいいればいい。その7%を支える人が30%くらいいるイメージ」と紺野さん。

|イノベーションの必要性とは

FCAJファウンダー/多摩大学大学院 教授 紺野 登氏にイベント後、改めてお話を伺いました。

―なぜ、今大企業にとってのイノベーションが必要なのか?

大企業は、創業時は何らかのイノベーションを行っていたはずです。ところがだんだんと企業が大きくなると、現業が安定性を求めるようになり、イノベーションができにくくなっていきます。ところが本業がいまはなくなる時代です。大企業はもちろんリスクのために、新しい事業に投資したりもしますが、どうしても本業にリソースをとられ新事業がうまくいかなくなる。本業とイノベーション、どちらもというのはバランスがとても難しいんですね。

しかし、大企業がイノベーションを興さないと持続できなくなります。むやみにイノベーションを行っても本業が大きいのでうまくいきません。体系的にイノベーションを行い、イノベーションマネージメントを前提に取り組む必要があります。

―今後の展望

いま、世界中のさまざまな企業や都市がイノベーションとしての「場」に関心を持っています。EMICモデルはイノベーションとしての「場」を総合的に評価できるフレームワークですが、そういったフレームワークがないと検証ができないですよね。現状を把握して、改善したり、特に企業の経営の中にイノベーションを埋め込むためのツールとして活用いただきたいです。

イノベーション経営・イノベーションマネージメントシステムがでてきていますが、その中で「場」のアップグレードはどうするんだというときに、EMICが国際標準になるといいなと思っています。

参加者の声

”イノベーション関係の仕事をしており、新規事業の立ち上げ等に携わっているので「場づくり」に関心があり参加しました。この場(QUINTBRIDGE)を作られたのも、垂直立ち上げというのもすごいなと思いますし、何より経営層をも巻き込んで一丸となり運営されているんだなと刺激を受けました。”


”実は本店の移転を控えており、いままでのオフィスは各部署で仕切られており各部署で連携が取り辛いような仕組みになっていたのを、社内のコミュニケーション・連携が活発になるような空間を作りたいという思いがあり、場作りについて学びたく参加しました。目指している場づくりのお話を聞くことができ、起こりうる課題等も知ることができました。”

”参加のきっかけは、昨日たまたまQUINTBRIDGEに初めて来て、イベントの存在を知ってイノベーションに関心があったので参加しました。今回のお話も興味深い内容でしたし、他のイベントも面白そうなテーマが多いので、今後も参加してみたいと思いました!” 

|QUINTBRIDGEでの「イノベーション」を生む共創活動事例について

QUINTBRIDGEでは、会員の皆様がQUINTBRIDGEで主体的に社会課題の解決に向けた「共創」の取り組みが多く開催されています。

ー大企業の共創活動事例

■三菱電機株式会社
赤外線センサMelDIR(メリダ) と共創を生むスタートアップ企業を募集するリバースピッチ!
https://www.quintbridge.jp/about/library/detail/202308240000.html

■江崎グリコ
Innovator Creation Camp the 2nd
https://www.quintbridge.jp/about/library/detail/202308250000.html

ー自治体の共創活動事例

■鹿児島県・鹿児島大学
鹿児島の隠れた名産 島バナナのブランディングアイディアを考えよう!
https://www.quintbridge.jp/about/library/detail/202308300000.html

QUINTBRIDGEの活用事例について過去のライブラリ―記事に掲載しています。ぜひ参考にご覧ください。
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