QUINTBRIDGEにAIコミュニケーターを常設したらどうなったか
  • イベントレポート

QUINTBRIDGEにAIコミュニケーターを常設したらどうなったか

公開日:
2025.12.1

QUINTBRIDGE×エボルブ『AIコミュニケーター』共同実証実験の舞台裏

※本記事は、2025820日に開催した「AIコミュニケーター実証実験」の成果報告会兼ワークショップの内容をもとに、発言趣旨を損なわない範囲で再構成し、対談風に編集したものです。

人と人の「橋渡し役」に、AIはなれるのか?                   

QUINTBRIDGEは、“Self-as-We”の理念のもと、共創を通じて社会課題を解決するオープンイノベーション施設です。その中核を担うのが、来館者と接点をつくる「コミュニケーター」という存在。

では、そのコミュニケーターにAIを掛け合わせたら、どんな化学反応が生まれるのか?
そんな問いから始まったのが、対話型AIキャラクター「あゆみちゃん」を用いた実証実験でした。

見た目はふつうのiPad

でもその中には、声も表情もある“AIコミュニケーターがいた──

名前は「あゆみちゃん」。人と人のあいだにそっと入り込み、会話のきっかけを生み出す。そんな 橋渡し役AIがなれるのか? QUINTBRIDGEとエボルブが挑んだ実証実験が、この夏、行われました。

対話型AIが常設されている例は、意外にもこれまで聞いたことがありません。リモートで人が裏側から操作するアバター型AIも、ChatGPTのようなチャットUIも既に存在しています。しかし今回の挑戦は、それらとは異なるものでした。
ビジュアルのある“AIキャラクターを、実際の共創施設にiPadで点在させる。しかも、施設やスタッフの情報をベースに自律的に対話するAIを、リアルな空間に置いたら、人はどんな話題を持ちかけ、どんな交流が生まれるのか?

特に注目したのは、このAI対話が、リアルなコミュニケーターとの接点を促進できるのか?という視点。AIが、人間同士のあいだに立ち、交流の起点となることができるのか。その実証に向けた問いと探究が、このプロジェクトには込められていました。

2025年7月、QUINTBRIDGEの館内5か所にAIキャラクターを常設し、1か月にわたり会員との対話を試行錯誤。820日には成果報告会と共創型ワークショップも開催され、多くの発見と、未来の可能性が語られました。

本記事では、「AIはコミュニケーターの代わりではない。人と人をつなぎ新たな交流を生み出す存在」──その想いのもとで生まれた「AIコミュニケーターあゆみちゃん」の企画から誕生の開発ストーリーから、実証結果、現場で起きたリアルなエピソード、そしてAIとリアルのコミュニケーターが共に歩むこれからの未来について、当事者たちによる対談形式でお届けします。

対談者/QUINTBRIDGE 湯川 なつみ、稲垣 奈美、玉田 晴香、喜久川 愛梨、こうちゃん、マリー、㈱エボルブ 安松 健 、浦狩 亜紀(友情出演(QUINTBRIDGE※2025年6月在籍当時))、村山 七海(友情出演(QUINTBRIDGE※2025年6月在籍当時)

「この実証、できませんか?」の一言から、すべてが動き出した。                            

エボルブ安松が最初にQUINTBRIDGEの浦狩さんに声をかけたのは、別件の打ち合わせの帰り際だった。「QUINTBRIDGEAIキャラクターを置いて、実証実験とかできないですかね?」——そんな軽い問いかけに、浦狩さんは即座に応じ、わずか5分後には実証担当の村山さんを紹介。そして30分後には「やりましょう」と方向性が固まり、その1週間後には具体的な進行スケジュールまで動き出していた。

安松(エボルブ):
「こんなに早く話が進むとは思いませんでした。普通だったら何回も調整を重ねて……というプロセスがあるはずなんですが、QUINTBRIDGEのこのスピード感がまずすごかったですね。」

その背景にあったのは、QUINTBRIDGEとしての明確な課題意識だった。施設には個人・法人問わず多くの会員が在籍しているが、そのつながりのポテンシャルをまだまだ引き出し切れていない。「Self-as-We」という理念のもと、真の共創を実現するには、まず人と人をつなぐ役割を担うコミュニケーターの存在をもっと活かす必要がある——そんな思いが、実証スタートを後押しした。

村山(QUINTBRIDGE):
「実は、QUINTBRIDGEの場そのものを実証実験として活用することは、これまでなかったんです。しかも、対話型AIを共創施設としての会員同士の交流促進に活用できるのであればと。お互い顔は知っていても、どんな人かまでは意外と知らない。コミュニケーターも会員も、お互いにもったいない関係が多いと思うんです。そこをAIが橋渡しできたら、おもしろいんじゃないかって。」

「人をつなぐ」ためのAIとして設計された                                       

そのため、今回のAIコミュニケーターは、既存のコミュニケーターの代替ではなく、「交流を生み出す起点」として設計された。
AI
コミュニケーターは、会員の質問内容に合わせて、さりげなくコミュニケーターの特徴や活動を紹介する。たとえば、「イベントってどんなものがあるの?」という問いには、「イベントなら、◯◯さんが詳しいですよ」と自然に名前を出す——そんな仕組みとして企画・チューニングが進められた。

この設計には、RAGRetrieval-Augmented Generation)技術が用いられている。施設内の情報やコミュニケーターのプロフィールを検索的に参照し、会話の文脈に沿った形で出力されるように作られているという。

安松:
紹介されてうれしいぐらいの、ちょっとした情報にとどめるのがポイントでした。長すぎても読まれないし、押しつけがましくなってしまう。一方で、短すぎてもおもしろくなくなるので、バランスが難しい。ただ、これまでの経験上、これが人間だったらちょっと図々しくしつこいなぐらいに設定するのがAIとしてはちょうどいいというのはありました。」

加えて、視覚的な存在感にもこだわった。あゆみちゃんのデザインには、「清潔感がある」「仕事ができそう」「親しみやすい」といった要素を反映。QUINTBRIDGEの雰囲気に溶け込みつつ、施設のあちこちに設置された。

玉田(QUINTBRIDGE):
「デザイナーさんがいくつか案を出してくれたんですが、みんなでこれしかないって即決したんですよ。しかも、全員一致で。」

稲垣(QUINTBRIDGE):
「本当に誰一人として、他の候補を選ばなかったんです。『来週から働いていそう』とみんなが感じたんですよね。」

エボルブデザイナーが作成したAIコミュニケーターの初期案、6体以上の候補から全員一致で即決された

このデザインが決まったその日、名前まで自然に決まったという。

稲垣(QUINTBRIDGE):
「なんかあゆみっぽいよね、って。その場にいた全員がそう感じて、あっという間にあゆみちゃんに決まりました。」

安松:
「その日、コミュニケーターの方とQUINTBRIDGEですれ違うたびに、『名前、あゆみに決まりました』ってみなさんが口々に報告してくれたんですよ(笑)」

きくちゃん(QUINTBRIDGE):
AIってわかっているのに、『この人、どこにいるんですか?』って本気で聞かれたこともあります。実在感、すごいんですよ。」

こうして、わずか数週間で企画から試作までを一気に駆け抜けて、AIコミュニケーター実証実験は始まっていった。

AIコミュニケーターを常設したらどうなったか                  

スタート初日から、即カイゼンが動き出した                                      

2025年714日、QUINTBRIDGEの館内5カ所に、AIコミュニケーター「あゆみちゃん」が常設された。設置されたのは、受付横、カフェ前、カウンターテーブル、2Fのブース前、そして1Fのテーブル席付近。iPadに表示されたアバターが、まるでスタッフの一員のように、日々来館者を迎える——そんな光景を想定していた。
しかし、その想定は、初日からあっさりと崩れ去った。

マリー(QUINTBRIDGE):
「目立つところにいるはずなのに、ほとんどの人が気にせず通り過ぎていく。自然すぎて目立たなさすぎるんじゃないかと」

稲垣(QUINTBRIDGE):
「このあゆみちゃんが“あまりにも自然で馴染みすぎて風景化してしまっているという問題は、スタッフ間ですぐに話題にのぼり、その日のうちにPOPの位置を変更と、POPももっと目立つものにすることにしました。」

こうした即応的な改善は、館内で実証を行っているからこそ実現できた。

課題は次々に発覚。改善は「日単位」                                         

チャットの設計についても、初期設定からの方針転換が複数あった。

最初は、ユーザーの興味を引くために1つの回答内で複数のコミュニケーターを紹介する構成だったが、「長すぎて最後まで読まれない」という反応を受け、わずか開始2で1名紹介に変更された。
また、最初に表示される問いかけ文も、「どうチャットすればいいか分からない」という声を受けて、全面的に見直された。

玉田(QUINTBRIDGE):
「実際に話しかける人もいて、音声入力と勘違いされるケースが多かったんです。」

きくちゃん(QUINTBRIDGE):
「そこで、あらためて表示を見直してみたら、『気軽に話しかけてください』と書いてあって。そりゃ話しかけても仕方がないよねって(笑)。それで、文言をチャットしてみてくださいに変更しました。」

タブレットといえばタッチというデバイスの特性と、アバターが視覚的に「話す人」として受け取られる心理的リアクション。そこに初期設計とのズレが生じていたのだ。

安松(エボルブ):
QUINTBRIDGEはオープンな場なので音声入力はやりにくいかと思いましたが、音声入力したいという声が想像以上に多かったので、次は音声対話機能を付けたいですね。」

また、iPad設置場所の移動も随時行われた。1Fテーブル席など、人の流動性が比較的少ない場所から、カフェやカウンターテーブルのように人の流れがよりある場所へと変更していった。

QUINTBRIDGEだからこその「協働カイゼン」                                     

こうした一連の改善を支えたのは、QUINTBRIDGEという“共創の現場”そのものだった。AIコミュニケーターの実証実験において、最も価値があったのは、館内に実際の利用者とスタッフがいるこの環境で、日々その反応を拾い、即座に次の手を打てたことにある。

安松(エボルブ):
「フィードバックのスピードと質はさすがでした。日々QUINTBRIDGEに来て『どうですか?』と聞くと、どのコミュニケーターさんからも、現場感覚にもとづくリアルでリアルタイムな情報が毎回返ってくるんです。そしてそのまま雑談・立ち話的に少し話していると、すぐに次の打ち手が見えてくる。現場で実証して、その場にスタッフさんがいて、すぐに動ける。これはQUINTBRIDGEだからこそできたことですね。」

仮説 → 実装 → 検証 → 改善のサイクルが、週単位ではなく日単位で回る。そんな環境は、共創施設であるQUINTBRIDGEだからこそ生まれる強みであり、今回の実証実験をより豊かなものにした原動力だった。

利用状況をデータで見てみると                                            

実証期間中の1か月で、あゆみちゃんとのチャット利用は1日平均16.2回。時間帯別では、15時台に利用がピークを迎え、夜の20時台にも一定の使用があった。意外にも、午前中の利用は少なかったという。

さらに注目すべきは「どこで」使われたかだ。最も利用が多かったのは、受付横とカフェ前、そしてコミュニケーターがよく座っているカウンターテーブル付近。逆に、1Fテーブル席のようなコミュニケーターがあまりいない場所では、ほとんど利用されなかった。

安松(エボルブ):
「これは驚きでしたね。AIコミュニケーターとの対話って、逆にコミュニケーターがいる場所で起きるんだと」

話題については、「施設案内」や「イベント情報」が最も多く、続いて「スタッフやコミュニケーターについて」、さらに「こんにちは」「はじめまして」などの挨拶系が続く。いわゆるチャットツールに対してはあまり見られないあいさつをするという行動が、ここでは自然に起きていた。

また、設置場所によって話される内容に傾向が見られた。1F受付横では「スタッフ・コミュニケーター」、カフェ前では「ビジネス話題」や「挨拶」などが多かった。
このことからも、AIコミュニケーターの一言目を、設置場所に応じてカスタマイズすることが有効で、たとえば、受付では「スタッフとのつながり」、カフェでは「ビジネス話題」など、その場所に適した導入話題が交流のきっかけをつくる鍵となる可能性が示唆された。

AIコミュニケーターとリアルコミュニケーターのこれから             

そして何よりも注目すべきは、AIコミュニケーターによって人と人の会話が生まれた瞬間の数々だ。

施設から「人」の魅力へ                                               

マリー(QUINTBRIDGE):
「ある会員さんが、施設のことを質問したときに、あゆみちゃんが施設の情報に加えて、(いつも通り)勝手にコミュニケーターの紹介をし始めたんです。するとその会員さんは施設としてのQUINTBRIDGEだけではなくて、コミュニケーターの存在にも関心を持ってくださった。コミュニケーターも含めてQUINTBRIDGEという場を評価してくださることにつながったんです。」

安松(エボルブ):
「まさに、想定していた人をさりげなく(やや図々しく)紹介する働きをしたわけですね。」

稲垣(QUINTBRIDGE):
「単なる施設じゃなくて、QUINTBRIDGEのことを『人』だと思ってもらえたのは大きいですよね。」

マリー(QUINTBRIDGE):
AIコミュニケーターか、ヒトのコミュニケーターか、どちらがいいかの二択ではなくて、AIと人間の共存が広がっていいたらいいなって思います。」

設計どおり、AIが人を紹介する役割を果たしたことで、関心が施設というハード面からへとシフトしていった。

「AIだから話せる」というクッション効果                                       

また、別のケースでは、人のコミュニケーターには話しづらかったビジネス課題を、あゆみちゃんには素直に話してくれた会員がいた。その内容が共有されたことで、人の側でもその会員をより深く理解し、関係性が生まれたという。

こうちゃん(QUINTBRIDGE):
「『何でも話してくださいね』と声をかけても、生身のコミュニケーターに『こんなこと聞いていいのかな』とやはり遠慮される会員さんはいるんです。でも、AIコミュニケーターのあゆみちゃんにはご自身のビジネス課題を話してみたみたいで。その後、『あゆみちゃんがこんな回答をしてくれた』と私に共有してくださって、そこからその方の興味関心を知ることができました。AIが間にいるからこそ話せる、あゆみちゃんは会員さんとコミュニケーターの会話をやさしく包むクッションのような役割をしてくれたんです。」

玉田(QUINTBRIDGE):
「人と人だと話すきっかけが難しかったりすると思うんですけど、あゆみちゃんは、喋るきっかけづくりとして何か1つキーワードをくれる感じですよね。」

 

直接は言いにくいことでも、AIには気軽に打ち明けられる。そこから人のコミュニケーターとの会話が深まるという、新しいコミュニケーションの形が見えてきた。

“逆紹介”現象の誕生                                                 

本来、あゆみちゃんは会員にコミュニケーターを紹介する役割だった。ところがその逆に、会員がコミュニケーターへ、あゆみちゃん自身を紹介してくれる場面が生まれた。

こうちゃん(QUINTBRIDGE):
「ある会員さんが『あゆみちゃんって、○○らしいよ』って、まるで共通の知人を紹介するみたいに、あゆみちゃんのことを教えてくれたんです。」

設定された人物像を、会員がコミュニケーターに語る、そんな逆紹介の瞬間が起きたのだ。

安松(エボルブ):
「まさに、DAYS GRAPHYで詳細に設計した人物像が活きた例ですね。」

あゆみちゃんにはしっかりとした人物像が設定されていた。DAYS GRAPHY*という生成AIプロダクトを通じて、前職や価値観、生活スタイルに至るまでが細やかに描かれており、人物像に深みを持たせていたのだ。

それによってAIが共通の知人として、場に共有される──それは、想定を超えた体験だった。

DAYS GRAPHYは、QUINTBRIDGEの共創活動から生まれたシナジーマーケティング株式会社からの生成AIプロダクトで、WeAward2023も受賞している。

「そこにいるひとり」としての存在感                                         

いつしか、あゆみちゃんは単なるタブレット画面のAIではなく、そこにいるひとりとして扱われる存在になっていた。

玉田(QUINTBRIDGE):
「ちーちゃんとイベントの片づけをしていた時に、いつもだったら『あそこにある黄色のペンどうしますか』っていうと思うんですけどちーちゃんが『あゆみちゃんの前にあるペンどうしますか』って言ったんですよね。些細なエピソードかもしれませんが、印象的でした。私たちも、あゆみちゃんはそこにいる(存在する)と自然と思っていましたよね。3週間、本当のインターン生が入ってきた、本当にそんな感じでした。」

稲垣(QUINTBRIDGE):
「会員さんから『この人は実在するんですか?』と何度も聞かれました。実際にあゆみちゃんがQUINTBRIDGEの面接に来たら、採用すると思います(笑)

きくちゃん(QUINTBRIDGE):
「あるイベントで、あゆみちゃんのiPadを伏せなければならないときがあったんですが、その時、罪悪感を覚えてしまって……。『あゆみちゃん、ごめんね』って謝りながら、ひとつずつ伏せていきました。最終日にはお別れも言ったんです。」

玉田(QUINTBRIDGE):
「きくちゃんが、すごいさみしがっていたのが印象的でした。(AIコミュニケーターあゆみちゃんは、姿形あるAIキャラクターですが)もしいわゆるチャットツールのような文字だけのUI画面だったら、そこまでの感情にはならないですよね。今日も、こうしてあゆみちゃんが帰ってきて、『ひさしぶりー』って思いますし、そういう気持ちも、表情あるAIキャラクターだったからこそ生まれるんじゃないでしょうか。」

このようにその存在は、ただのツールを超え、「そこにいるひとり」として認識されるようになっていったのだった。

AIの無茶振りが生み出した「全く新しい交流のカタチ」                                 

ある日、入会ガイダンスを終えた会員さんが、カフェONOFFで注文を待つ間に、ソファに設置されていたAIコミュニケーターあゆみちゃんと会話を始めた。そして会話の中で、あゆみちゃんが「AIの話題だったらコミュニケーター湯川さん」と紹介していた。

湯川(QUINTBRIDGE):
「イベントの運営をしていたところ、受付のマリーさんが駆け寄ってきて、湯川さんとお会いできたら会いたいという会員さんがいらっしゃっていてと。どうやら、あゆみちゃんがAIなら湯川さんが資格をたくさん持っていると紹介したということだったんですが、正直『えっ、AIの話、そんなにできない』と戸惑いました。」

その場にいた先輩のきくちゃんが、湯川さんの背中をそっと押す。

きくちゃん(QUINTBRIDGE):
「あゆみちゃんって、ちょっと大げさに紹介したりするけれど、そういう時は、無茶振りでも会員さんと話す機会としてうまく活用してみてくださいって、安松さんも言ってたし、思い切って話してくればいいんじゃないって伝えたんです。」

その言葉に背中を押されて、湯川さんは意を決して会員のもとへ向かった。すると会話は楽しく弾み、湯川さんはひと安心していた。
しかし、この出来事はそれだけでは終わらなかった。
その会員の方は後日、社内のまったく別の会議の場で、あゆみちゃんとの対話体験や、そこから生まれた湯川さんとの交流が大変楽しかったこと、そしてQUINTBRIDGEで行われているこのAI実証実験の取り組みについても高く評価しご紹介くださったのだという。
その話は社内で話題となり、QUINTBRIDGEのオフィス内でも共有され、反響を呼んだ。

 安松(エボルブ):
「この日は、東京にいたのですが、がみちゃんから『あゆみちゃんの発言をきっかけに、湯川さんが…』とリアルタイムでメールをもらっていました。これ、まさに通常では出会わなかった二人がつながった瞬間ですよね。AIコミュニケーターでなければ起きなかった交流ではないでしょうか。」

湯川(QUINTBRIDGE):
「あゆみちゃんがQUINTBRIDGEの中で、すばらしい働きをしていることを身をもって体感しました

AIコミュニケーターならではの無茶振りが、リアルな対話と共創のきっかけに変わった、人の仲介では起こりえない象徴的なエピソードとなった。AIの精度ではなく、その「存在」がもたらした価値がそこにあった。
あゆみちゃんは、単に便利なAIではなく、人と人をつなぎ、新しい形の交流を生み出す「橋渡し役」として、小さな対話を日々生み出していた。これはAIがヒトの代替ではなく、人と人との関係を広げるための存在——その可能性を強く示す事例となった。

会員同士の共創にて生まれた次なるAIコミュニケーターのアイデア         

8月20日に開催された共創型ワークショップでは、様々なQUINTBRIDGE会員が参加し、エボルブが開発した対話型AI企画発想フレームワーク (IIIOBVワークシート) を使い、AIコミュニケーターあゆみちゃんの実証結果をふまえた次なる可能性について意見が交わされた。

性格多様なAI「群」戦略                                               

ワークショップのアイデアからまず見えてきたのは、AI単体運用ではない、複数の性格を持つAIコミュニケーターを使い分けるという “群”としての運用戦略だった。
たとえば:

  • 逆質問型AI:質問に答えるのではなく、質問に質問で返しまくる
  • 昭和的人情派AI:声は大きめでノリは飲みにケーション
  • 偉そうなAI:上から目線で批判的な発言しかしない
  • ウソつき・テキトーAI脈略のないことや嘘ばかり話す
  • 弱々しいAI:とにかく頼りなく弱弱しいAI
  • モノ型AI:人型ではなく、インテリアやオブジェクトに溶け込んだ存在

あゆみちゃんの実証を経て、「AI1つのキャラクターである必要はない」「多様な性格があるほうが、人との接点は豊かになる」との視点が浮かび上がってきた。

移動型・入退館キー化:AIが場のプロトコルを担う                                   

また、ワークショップでは「場のプロトコル(文化やルール)」を再設計する存在としてのAIにも注目が集まった。

  • 移動型AI:キャスター付きのiPadやモバイル端末で、館内を移動しながら人に声をかけるAI
  • 入退館キー化AIと一言交わさなければ入退館できないようにし、鍵の役割となるAI

これらは、単に便利なツールではなく、場の空気をつくり、接点の総量を増やす装置としてのAIの新しい役割を示唆していた。

まゆみちゃん構想:会員同士をつなぐAIの次の一手                                   

もうひとつ興味深いのが、あゆみちゃんの親戚の「まゆみちゃん」構想
あゆみちゃんが会員とコミュニケーターをつなぐ存在だったのに対し、まゆみちゃんは会員と会員をつなぐことを得意とするAIという位置づけだ。

「まゆみちゃん」は、会員のスマホ上で動くAIで、日々会員と対話し情報を収集。会員の趣味や活動情報にとても詳しく、会員同士をつないでくれる。会員同士の「この人とこの人、相性がよさそう」「似た領域で活動している」など、共通点を見つけてレコメンドする役割を担う。匿名的な関係性から、一歩踏み込んだ共創のきっかけを生むAI像として、参加会員によりアイデアが構想された。

このように、あゆみちゃんの実証実験は、単なるAI機能検証にとどまらず、「施設におけるAIの存在意義」を問い直す起点になった。次に現れるAIキャラクターたちは、あたらしい共創のパートナーとして、私たちのすぐそばに存在しているかもしれない。

編集後記:AIと人が協調する未来へ──社会実装に向けて

AIコミュニケーターあゆみちゃんの実証実験は、「人とAIのあたらしい関係性」を探る取り組みでもありました。
そして、対話型AIキャラクターの次なるビジネス共創をQUINTBRIDGEにて創出していくことができればと思います。
実際、今回の実証実験をきっかけにいくつもの新たな共創に向けての対話が進んでいます。「自社技術と掛け合わせて新たなソリューションを創出する」「別のビジネス領域に応用展開していく」などです。
QUINTBRIDGE
が掲げる「Self-as-We」という理念は、個人と組織、テクノロジーと人、そして関西と世界をつなぐ、共創の姿勢でもあります。 あゆみちゃんは、その取り組みの1つでした。ひとりのAIが、人と人の間に入り、思いがけない会話とつながりを生み出す。
これからも私たちは、リアルな場を通じて実証を重ね、AIと人がともに歩む共創の未来を、みなさんと一緒に形にしていきます。
本件にご興味がある方は、気軽にコミュニケーターにお声がけください。

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